語るゴリラと本の森

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コミュニケーションに正解は無い。悩もう。ーーゴリラ、『レインツリーの国』を語る【感想・あらすじ・ネタバレ】

 

 こんにちは。ゴリラです。今回は有川浩氏の『レインツリーの国』を読みました。

 

 有川浩氏は2003年に発行された『塩の街 wish on my precious』でデビューし、以来『図書館戦争』シリーズや『三匹のおっさん』等の作品は映像化されて世に送り出されてきました。

 実は『レインツリーの国』は『図書館戦争』シリーズのある作品と少し関わりがあります。この感想を読んで手にとっていただければ幸いです。

 ちなみに、副題には英語で「World of delight」と書かれています。直訳すると「喜びの世界」になりますが、読んだ後になぜこの副題なのかがよく分かります。こういった小説外での「遊び」の部分は個人的にとても好きです。

 それでは、あらすじからどうぞ。

 

あらすじ(というか導入)

 

 きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。

 僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があったーー。

新潮文庫版裏面より引用

         

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感想

 

 あらすじを読んだだけでは「訳アリ恋愛小説」にカテゴライズされてしまうかもしれないな、と思います。確かに、話の内容自体はシンプルですが、それだけでこの小説を味わった気になるのは少しもったいないです。

 Wikipediaでは『レインツリーの国』は恋愛小説にジャンル分けされており、また有川浩氏自身もあとがきで恋愛モノを書いた、と述べています。しかし、私にとってこの小説は、単なる男女のすれ違いではなく、人とのコミュニケーションに関わる重要なポイントを考えさせる小説として写りました。

 女性主人公・ひとみは高校生の時の事故で聴覚にダメージを負い、補聴器無しでは生活もままならない状況に陥ってしまいます。そして、ネットを通じて出会った男性主人公・伸行とぶつかり合いながらも絆を深めてゆく、というのがストーリーの大筋です。

 ここで重要なのは、二人がぶつかる原因が男と女の関係特有のものではなく、健常者か難聴者か、にあることです。つまりは、普通のカップルとして付き合っていく以上に乗り越えるべき課題や、お互いに知らなければならないことが出てくるのだと思います。

 私自身の周りに聴覚に難がある人がいないので(気付いてないだけかもしれません)、普段はあまり考えることはありませんでしたが、耳の聞こえ辛い方が普段どういったことで困っているのかを知る良い機会になりました。

 

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 書店に行くと大抵の場合、「人と上手く付きあう方法」とか「好感度を上げる話し方」といった類のタイトルの本が棚を埋めています。私はずっと、このようにコミュニケーションを一般論だけで解説しようとする本がどうも苦手でした。

 人の性格は個人で違いますし、ましてや気分によってキャラが変わるような面倒くさい人も世の中にはごまんといるわけです。そんな人たちを相手に柔軟で適切なコミュニケーションが取れるでしょうか?恐らく無理でしょう。

 「Aさんはこうしたら喜んでくれたからBさんにも同じことをすれば喜んでくれる」なんてことは断言できないのです。仮に喜んでいるように見えても、それが本心からきた感情なのかは当人しか知り得ませんよね。内心をお互いに見せ合わない限りは、あらゆる行為がコミュニケーションと呼べるものではなく、博打に近い一方向的な感覚の押し付け合いになってしまうのです。

 ひとみも伸行も、お互いを理解しあってきたかと思えば次の障害に立ち止まり、右往左往します。この右往左往をどれくらい続けられるかが相互理解の肝になってくるのではないでしょうか。相手が自分を知ろうとしてくれなければ、自分が相手に分かってもらおうとしなければ、きっとすれ違い続けたまま見当違いの方向に進むか、迷子になって再会できなくなるかもしれません。

 生きていれば性格が合わない人だってなんとなく気に食わない人だって出てきます。ですが、相手をのっけから拒絶しておいて自分の事を知ってもらおうなんてことは単なる我侭です。人間そんな完璧にできた人なんて居ないので、時間かけて根気よく他人を知る努力をしよう、と改めて思わされる一冊でした。

 ※長々と講釈垂れてすみません!普通の恋愛小説としても十分楽しめる作品です。分量も220ページと読みやすい長さです。

 

 それでは。